自信を持って脚を持とう。逆行する必要はない日本人。【ワイングラスの科学その3】

 その2を書いている最中に、更に別の人から問い合わせがあった。こんなにワインに関心のある読者がいるとは思わなかった(笑)。

 科学的にもステムを持つべきだと思いますが、ステムを持つのは日本だけという記事が沢山出てきます。本当にそうなのでしょうか?

 確かに「脚(ステム)を持つのは日本だけ。国際マナーではボウルを持つ」と書いているサイトがいくつもある。私が最初に見聞きしたのは7年くらい前。その後も2年に1回くらい見聞きする。

 実際に検索し出てくる欧米の晩餐会などの写真は、手の平にすっぽりと収まる古典的な小さなワイングラスばかり。各国首脳の晩餐会などはワインがメインではないので(なおかつ客人が会話に集中できるよう完全な状態で出すのがソムリエの仕事ということもある)、大きなグラスを傾けて顔が隠れるのはよろしくないという事情もあるだろう。いわゆるTPO。

 これらを見て「欧米人は皆ボウルを持つ」と考え直した人もいるんじゃなかろうか。

 現代的な大きなグラスのサンプルを探してみた。『ウィリアム王子&キャサリン妃のロイヤルツアー・ベスト・モーメント18』ではウィリアム王子はボウルを指先で、キャサリン妃は脚を持っている。屋外でのテイスティングなのでフォーマルなシーンにも当てはまるかは別なので参考までに。

 チャールズ公とカミラ夫人は脚を持っている写真があった。

 エリザベス女王は脚を持っている写真と、ボウルを持っている写真と見つかったが、いずれも大きな現代的なグラスというわけではないので参考になるかどうか。

 『Royal Etiquette Lessons - Royal Etiquette Rules』では、

7 Hold a wine glass at the stem.
royal etiquette
Not only does this prevent your body temperature from heating up the liquid, but it also looks superdainty. And if you're wearing lipstick, be sure to drink from the same place on the glass each time in order to prevent a "lipstick ring" from forming.

 英国王室のエチケットとしてグラスの脚を持つようにとある。ワインの温度が上がらないように、そして見た目の美しさのため。

 そのリンク先には

Remember that wine should only be poured to just underneath the widest part of the glass.

とわざわざワインはグラスの最も広い部分よりも下まで注がれるべきだとしている。

 今の時代では当たり前なことがそのまま書いてある。日本人はそのままで良いということ。

 ※エチケットのサイトはグラスに付いた口紅のことなども含め女性向けっぽかったので、男性のマナーにも全てがそのまま適用されるのかどうかは定かではないが、科学は疑いようのない方向を指し示していることから、これからの時代を生きる人達は脚を持つことをすすめる。言うまでもなく現代的な大きなグラスでワインを飲む場合の話。

 ではなぜ逆行(?)する日本人がいるのか。

 バブル期以降数回訪れたワインブームでテーブルマナーやワイン講座なども盛んに開催され、そういう場で用意されるのは大抵大きなワイングラスだから、日本人は先行して脚を持つようになり(日本人女性の手に現代のワイングラスのボウルが大き過ぎるし)、更にはスワリングも一般に普及し文明人(笑)となってはみたが、過去(多分20年以上前)に海外に行ったら現地はそうでもないのを見て不安に思った中年以降世代のソムリエが言い出したんじゃないかと推察する(グラスが小さかったんじゃないだろうか)。

 で、「本場のグラスの持ち方を知ってるオレはホンモノ」的な。

 そしてそれを真に受けた後輩ソムリエ達が「先輩から聞いたオレしか知らない話」っぽくドヤ顔(笑)で拡散しているとか。

 ただの推察に過ぎないが(笑)。

 いや、若いソムリエでだって海外旅行に行って見たことがあるだろうと言えば確かにそうかもしれない。しかしこう言っちゃなんだが、ソムリエの給与で欧米を旅行すると目にするのは大衆文化であり視界が偏ってしまうという問題がある。

 日本だとコースで1.5万円も払えば十分なサービスが受けられても、例えばパリなら飲み物代別で1人3万円以上のコースが最安というレストランでやっと日本人が考える本場の上質なディナーを満喫することができる(日本は飲食代が非常に安い)。それ以下だと例えオシャレであってもカジュアルなノリ。特にテーブルが狭いと小さいカジュアルな汎用グラスが出てくるので皆ボウル部を持つ。シャンゼリゼの昼間のカフェテラスとか(それでもシャンパン1杯が5,000〜7,000円もする)。

 そのあるワンシーンを見て「欧または米を見た」と思うのは、ドイツのビアガーデンに行って「ヨーロッパでは誰もワインなんて飲んでない」と言うのと同じレベル。

 日本は均等社会なので、底が高く天井が低い構造にある。あまりに酷い人をそう目にしないし、同時に貴族のような人を見ることも極めて少ない。一方欧米は底なしかつ青天井でレンジが広い。

 所得格差が激しい欧米では「グラスを回して味が変わるわけねーだろアホ」みたいな野蛮(笑)な人達も多いし、治安も悪いので一箇所に混在していることはほとんどない階級社会。結局のところ払ったお金分だけの景色しか見ることができない。

 で、欧州(を追いかけるように米)ではマナーなどに対する意識の高い女性達から脚を持つことが一般化している(≒大きなグラスを選ぶ)印象がある。男性は手が大きいので大きなワイングラスでもボウル部を持てなくもないからそのままの人達もいるのだろう。

 その1で紹介したリーデル社が脚を持つ女性達の写真を多用しているのも、敏感さ意識の高さから浸透しやすさを考えての戦略ではないかと推察する。

 何よりも日本人は自信がない。意識高い系のミーハーがすぐさま新しいことを取り入れたはいいものの、時間の経過と共にコンプレックスで後退するケースが多い。

 自信を持つためには自分の頭で考え、なぜなのかを理解するのがイチバン。すなわち知能(知性)の時代。

 いろいろと検索している中で、下記の記事がイチバン妥当(真っ当)だと感じたので紹介したい。