「私は知能が高い。しかし職がない。だから知能が高くても意味がない」は真か。

 先日の三段論法から見る認知の歪み(偏見)に続いて、例えば、

 私は知能が高い。しかし職がない。だから知能が高くても意味がない。

という主張があったとする。どうだろうか。

 これは成立しない。私なら絶対雇わない(笑)。

 ※知能の高低は、病院で受ける正式な成人知能検査による値を前提とする。

 本人が職がないからといって、知能の高さの有効性を否定する理由にはならないから。むしろ、知能が高いのに(それが本当なら)職が得られない大きな理由を抱えている可能性の方に目を向ける必要がある。

 性格に難ありとか。人として魅力がないとか。会話が成り立たないとか。教養がなく面接で落ちるとか。目つきが悪いとか。挙動不審で人前に出せないとか。不誠実であるとか(信用できない)。時間にルーズ(遅刻した)とか。身だしなみに問題がある(不潔)とか。そもそも職を得ようとしていない(努力しない)とか。職が得られない理由は山ほどある。

 「東大を出ました。でも職がありません」と聞いた時、“頭以外の問題”を思い浮かべることと同じ。

 余計に厄介。

 その点も考慮すると、知能検査と精神鑑定はセットで行う必要がある。すなわち知能が有効に機能するかどうか

 パソコンで言えば、CPUは高性能だがファンが付いてないから熱暴走するとか。キーボードがないから入力できない(実行命令を与えられない)、ディスプレイがないから思考(演算)を出力(表現)できないとか。全体で見ると性能・機能性が低い。

 その反対に、

 私は知能が低い。しかし大成功した。だから知能は関係ない。

という主張があったとする。どうだろうか。

 ※ほとんどの場合、そういう人は知能検査を受けないので滅多にお目にかかれない事例だとは思うが。

 これだけでは「知能は関係ない」とは断定できないが、一考に値する。どういうことが考えられるだろうか。

●知能検査で測定していない能力が圧倒的に高い。その領域を活かした職についているまたはビジネスを営んでいる。

●知能の低さを補うだけの魅力がある。足りない部分を周りがサポートしてくれる(人に愛される)。

●知能指数自体、社会的成功とは何ら関係ない。

 または、

●社会の変化が早く、現行の知能検査の適合性が薄れている(追いついていない)。

●「知能」と「検査結果としての知能指数」がズレている。すなわち知能指数が低くても知能が高い可能性がある。

など。

 ヒトが進化の過程で群れをなしたり道具や火を扱うようになったことを取りあげる際も「知能の高まりにより」と表現される。ということから知能は賢さの指標だという前提に立って考えると(検査の結果である「知能指数」とは切り離して)、「知能が高いのに上手く行かない」はそもそも知能が高くないのか(知能検査が間違っているのか)、その他の問題が大きすぎると考えられる。

 という思考力があれば、「私は知能が高い。しかし職がない。だから知能が高くても意味がない」といった主張はしないので、この主張をしている時点で恐らく知能は高くないと考えられ、それ(自己中心的な思考と視野の狭さ)が職が得られない原因だろうと推定できる。

 この主張を他の言葉に置き換えてみよう。

 私は背が高い。しかしモデルにはなれない。だから背が高くても意味がない。

 私は美人だ。しかしモテない。だから美人に生まれても意味がない。

 私は東大卒だ。しかし職がない(或いは出世しない)。だから東大を出ても意味がない。

 私は歌が上手い。しかし歌手になっても曲が売れない。だから歌が上手くても意味がない。

 私は黄金比級のナイスバディだ。しかしまともな男と付き合ったことがない。だからナイスバディでも意味がない。

 私は大金持ちだ。しかし女性に愛されない。だから大金持ちでも意味がない。

と並べてみると、1.5秒くらいしか笑いが取れない(笑)陳腐な主張だということが解る。 

 背が高くても顔が悪いかもしれないし、美人でも育ちが悪いかもしれないし、東大卒でも教養がないかもしれないし、歌が上手くてもスター性がないかもしれないし、ナイスバディでも頭が悪いかもしれないし、大金持ちでも性格が悪いかもしれない。

 結局のところ、自分の得意なことにばかり目を向けていてもダメということ。得意なことをやっているときは楽しく励みになるかもしれないが、仕事とは「雇用契約」という言葉が指し示す通り労働と賃金の交換すなわち売買契約であり、求められているものを提供する必要がある。

 ということから、特技を伸ばすよりも、欠けているところを補う努力の方が有効だと私なら答える。聞かれたら。

 しかしここ十年ちょっと、大人が少しでも何か問題点を指摘・注意しようものなら「パワハラ」だという騒ぎになりかねず、敢えて何も触れない大人が増えた。その結果、自分の何がダメなのかを知らずに育った人が多い印象がある。

 だからこそ本当の意味でのサポートとはソコにあるのだと思うが、多分この時代人間がやりたがらない仕事なので、いずれスマートフォンのAIによる持ち主の性格・教養分析のようなアプリの判定に委ねる時代になるんじゃないかと予測する。

 検索キーワードやSNS、掲示板等への投稿内容も分析できるので、最も精度が高い(可能性が高い)。