「トランプ支持者の素顔、実は白人富裕層  WEDGE Infinity(ウェッジ)」

低所得の白人労働層というイメージは正しくはあるが間違いでもある。実際にトランプを支持しているのは白人富裕層だ。

 選挙の話をしたいのなら、その視点はちょっとばかりズレている。富裕層の票は4.129%(1,355.4万人÷3.282億人)しかないのだから。配偶者とその子供(選挙権のある年齢なら)を入れても12.387%で、全員がドナルド・トランプに投票したとしても彼が選挙で過半数近くの票が獲れるわけでもなく、圧倒的大多数=労働者階級の票あっての前回(当選)、そして今回(書いている時点で47.73%の得票)がある。

 ※富裕層の定義は金融資産1億円以上。

 テーマが選挙資金力や経済ならば、アメリカの場合上位1-2%の大富豪達がアメリカの富の50%を所有しているので、「富裕層が支持」=“強い”(または実体)と言えるが、選挙の場合はどこまでいっても数。

 書いている時点での状況を見ると、下記の通り都市部と田舎の差が激しい。


 ニューヨークを抱えるニューヨーク州を筆頭に、シアトルを持つワシントン州(アマゾンやマイクロソフトの本社がある)、ロサンゼルスやシリコンバレーを抱えるカリフォルニア州、シカゴのイリノイ州、上級公務員の多いバージニア州などはバイデン(というより半トランプ)。

 内陸部の田舎はトランプ派。

 大凡所得で分断されていると言え、平均所得が高い州ではバイデン優位なので、

しかし富裕層は子弟を奨学金なしに有名私大に通わせることができるし、最高の健康保険を持っているから最高のケアも受けられる。それができない人々に自分たちの税金が回されることを実は快く思っていない。

そのため富裕層は決してトランプを支持するわけではないが、民主党よりも共和党政権の方が自分たちに有利、という理由からトランプに投票する。

という理由で所得の高い人達がトランプ派(または共和党支持)かというとそうではない結果が出ている。

 インターネットの普及で得られる情報は均一化されてきているが、見ようとしている(=期待とバイアス)情報は都会と田舎では異なることがわかる。すなわち認知フィルター。

 田舎は今でもエリートよりジャイアンの方が頼りになる(と思われている)傾向が強い。法律や国際社会、マクロ経済など複雑な社会構造の理解に努めることよりも、手っ取り早く陰謀論を信じる人や、宗教的に物事を捉える人も多い。地元経済自体の構造がシンプルだからだろう。

 ましてや政治家としての資質とか品位・品格なんて二の次であり、どんなに下品だろうと強そうな(←重要)を求める傾向がある。良く言えば古典的、悪く言えば時代に取り残されている人達。

 これには教育水準と所得(生活)水準が大きく関わっている。今の時代、力尽くで何とかできるものではないことを本質的に理解するためにはそれなりの社会経験が必要であり、そういった思考力や視野を育む段階で親の社会的地位や教育水準、周辺環境の影響を受ける。

 アメリカ内陸部では、進化論はキリスト教と整合性がとれないから教科書から削除するという州がそれなりの数あり、未だに地球は丸くないとか、天動説を主張する人達もいて、知識的・教養的にも中央値から下と上の差が激しい。少なくとも都市部の大卒でそんな考え方の人はほとんどいないだろう。

 イギリスのEU離脱も同じで、「移民に仕事を取られている」という思考回路の労働者階級は、EUから離脱すれば就労ビザが必要となり移民の就労が減って、その結果自分達に仕事が戻ると考えていた(いる)。しかしダイソンが本社をシンガポールに移したり、ソニーパナソニックはヨーロッパの拠点をオランダに移すなど、労働者階級の目論見通りにはなるほど世の中シンプルではない。

 前回も今回も、あれだけ酷評されながらも何だかんだでドナルド・トランプが半数近い票を集めているのは、ドナルド・トランプが「解りやすい近道」に見える人と、「いや社会はもっと複雑であり」と熟慮する人との分断だと言える。

 もちろんドナルド・トランプの全てがダメかというとそうではなく、人々が政治家とは大統領とはと再考する上でも必要な4年間だったんだろうと思う。その結果今回の大統領選は120年ぶりの高い投票率となった。

 今後ますます知的格差、所得格差が開き「何でこの時代にこの人が半分近くの票を」といった傾向は強まるだろう。

 度々書いているが、1つの例としてサイバー犯罪がハイテク化すればするほど、弁護士や警察、検事、裁判官にはその真偽の判定能力が望めなくなり、再現性も低下していく(すなわち立証できないどころか、可能か不可能かさえ解らなくなる)。すると先進的な一部の知的層がどんなに現代的で優れた指導者を支持したとしても、大衆の理解が及ばず正反対の者を選ぶ可能性が高まり、いずれは「必ずしも皆の意見を聞くことが世の中のためなのか」という議論に向かうだろうと予測している。

 そうなれば、一旦は見かけ上の民主主義が後退するかもしれない。

 ※投稿時点でバイデン勝利を確認した。歳を取り過ぎているという点で全く支持はしないが、ドナルド・トランプよりは落ち着ついた政治をするだろうという点で安心感はある。イチバンの不安要素は、何だかんだでドナルド・トランプも半数近い票を獲っていること。選挙に行かない人達も含めたらどうなっていただろうかと考えると一抹の不安が残る。