「ワクチン優先順位、医療従事者の「次は高齢者」は正しい?|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト」

アメリカをはじめとする国では、社会的弱者である有色人種や少数民族といったマイノリティーの平均余命が全国平均より低いこと。従って、65歳以上の人口に占めるマイノリティーの割合は平均より低くなる。つまり高齢者を優先すると、ワクチン接種を受けられるマイノリティーの割合が低くなるのだ。マイノリティーが既にさまざまな不利益を受けてきたことを考えると、これは不公平に思える。

 多様性に乏しい日本にいると考えずに済んでいることなので、アメリカの思考が急速に揉まれ成熟していくのがよくわかる。

 「身長180cm以上」に絞ったら必然的に女性比率が下がるソレと同じで、意図的であろうとなかろうと、ある条件を定めることで間接的に特定の層を排除しているということが非常にしばしばある。

米疾病対策センター(CDC)のキャスリーン・ドゥーリングが提案したアプローチの背景にあるのが、この不公平感だろう。CDCの予防接種諮問委員会(ACIP)に対してドゥーリングは、65歳以上(約5300万人)より先に、「エッセンシャルワーカー」(約8700万人)にワクチンを投与すべきだと主張した。そのまま実施すれば、死亡率は高齢者を優先する場合に比べて0.5〜6.5%上昇する。

 私もその考え。理由は異なり、“媒介者”は誰かと考えると現役層だから。

ACIPは優先される資格を「全てのエッセンシャルワーカー」ではなく、ファーストレスポンダー(救急隊員や消防士など事故や災害の初期対応に携わる人々)や教師、食料品店販売員など約3000万人の「最前線のエッセンシャルワーカー」に絞り込んだ。さらに75歳以上の高齢者(約2100万人)にも、同様の優先権を与えることを推奨した。この勧告はリスクの高い高齢者を優先する考えと、全てのエッセンシャルワーカーを優先する考えの間を取った妥協案だ。

 この辺の“落とし所”を模索する思考が成熟している。そして決定するという行動力がある。アメリカは。

 この教授は「生命倫理学」という視点で見ているからというのもあるとは思うが、最終的に「より多くの人命を救う」ことが目的なら、ウイルスの特性を考えると、私は媒介者・拡散者をまずは抑える必要があると思っている。

 空気感染するようなウイルスとか、花粉のように風が吹いたら老若関係なくウイルスに曝されるというのであれば「免疫力の低い高齢者から」「重症化しやすい高齢者から」で良いんだが、COVID-19の場合はそうではなく、人口の多い或いは変異株が流入しやすい海外との接点の多い都心部から運んでくる(拡散する)人達すなわち現役層が媒介者となるので、まずは空港や交通網(タクシー含む)、宅配・物流関係者が先だと私なら主張する。

 家庭に出向く水道や電気などの工事業者も含めた方がいい。アメリカやロシアが対象にした教師やスーパーマーケットなどの生活必需品店の従事者も当然に接種した方が良い。加えて役所や郵便局などの従業者も接種した方が良い。

 媒介者・拡散者を探し出して悪者にしようというわけではない。日本も営業自粛に応じない店舗が増えてきているので、我慢できない(またはルールを守らない)者に言うことを聞かせる方法を考えるよりも、そういった人達が必ず一定数いるという現実を受け止めることで、だったら先に彼らに接種を義務付けようと私なら考える。要はソレ以上他人に迷惑をかけさせないためにも、最低限ワクチンは打っておいてねという考え方。いずれにせよ接客業従事者や若者は高齢者と比べて他者と触れる回数が多いだのから、元々潜在的な媒介・拡散者。相対的に。

 高齢者優先の考え方は、重症化率・致死率が高いため医療現場を逼迫させる要因でもあり、「多くの人命を救う」という意味で重視されやすいが、実際には既に現役層の感染と重症化率が高まっている。

 ワクチン効果が死亡者数減として出るのは2回打ち終わる1ヶ月後からなので、目の前の医療現場の逼迫を改善させる力はない。

 よって、「現状の拡散率からいけば3ヶ月後あたりの死亡者数はこのくらいだろう」と予測するしかない。言い換えると「現状の拡散率」よりも1ヶ月後以降の拡散率が下がっていれば、3ヶ月後に救える人命は増えることになる。

 すなわち、記事の言葉で言うところのエッセンシャルワーカーを優先すると短期で見れば「死亡率は高齢者を優先する場合に比べて0.5〜6.5%上昇する」かもしれないが、1ヶ月後の拡散率が下がることによって3ヶ月以降はそもそも高齢者の感染者数自体が減り、必然的に死亡者数はもっと減る可能性が高く、3ヶ月後以降の死亡者曲線は高齢者を優先した場合よりも右下がりになるだろうと私は考えている。

 拡散率は複利計算と同じで、1人が1.2人に感染させたら(=実効再生産数)、1.2人が1.2人に感染させて...と続き、30回目の拡散で累計感染者数は237人に達する。高齢者優先の考え方は、その中の高齢者の割合×致死率を下げたいということになるが、一瞬で高齢者全員にワクチン接種が完了するような仕組み(*A)でもない限り、現役層の拡散率がそれ以上に上がってしまうと「間に合わない命」が増える

 要はパンデミックが長引けば長引くほど、自粛効果が期待値を下回るようになるため、拡散率(実効再生産数)が上がっていく可能性が高まることから、高齢者優先か現役優先かの境界点がある。

 よって(*A)の正攻法がなく、パンデミックが長期化し経済が逼迫し始めた(=言うことを聞かなくなる人達が増える)段階では、現役層と(自粛に応じない)商売人を優先接種する方が、現実的に見て3ヶ月後の「救える命」が増えるだろうという見解。