三段論法から見る認知の歪み(偏見)。

 1つ1つ考えていけば、「何かおかしい」ことを理解する知能はあっても、ヒトとは普段平気で訳の分からない主張をしてみたりする。感情に支配されている状態。三段論法に置き換えてみると解りやすい。

 まずは定番から。

●全ての人間は死ぬ。ソクラテスは人間である。ゆえにソクラテスは死ぬ。

 真。「全ての人間は死ぬ」という前提が正しい場合は、人間であるソクラテスは死ぬ。正しい。ただし、ソクラテスが人間でない可能性がなければの話。だから前提が正しい必要がある。

●トム・クルーズは世界的な大スターである。トム・クルーズは背が低い。よって背が低い人は大スターである。

 偽。この場合、トム・クルーズが世界的な大スターであることも、トム・クルーズが一般的に背が低いと言われていることも事実だが、トム・クルーズではない大スターの方が数が多いことからも、背が低いことは大スターの十分条件・必要条件とはならない。トム・クルーズとは全体を示す存在ではない。この主張は、背が低い人が背が低い成功者を探して、背が低いこと=優位性だと思いたい心理から生じる。いわゆるコンプレックスの解消。

 こうやって三段論法を当てはめていくと、ある主張が何の根拠もないどころか、認知が歪んでいる(強い偏りがある)ことが解る。

 例えば、イチロー選手のニュースを読む度に「イチロー選手はアスペルガーだ」という主張を見かける。理由はいつもカレーを食べるかららしい(笑)。

●アスペルガーは変化を嫌い日々同じことを繰り返す。イチロー選手は毎日カレーを食べる。よってイチロー選手はアスペルガーである。

 偽。毎日カレーを食べる=アスペルガーなら、毎日ご飯と味噌汁と魚を食べてきた日本人は皆アスペルガーということになる。この主張は、アスペルガーな人またはその親などが、アスペルガーな成功者を探し「アスペルガーでも上手く行く」更には「アスペルガーだから上手く行く」と思いたい心理から生じると考えられる。その心理自体は何も悪くない。

 しかし、例えば軍人は毎日同じ時間に同じことを行い、綺麗に整理整頓して(=まるで強迫性障害のように)同じ服(軍服)を着る。しかし「だからアスペルガー」は成立しない。同じくサラリーマンが毎日同じ時間・道順で通勤するのはアスペルガーだからではない。

 そうすることが良い合理的な理由があるから。イチロー選手が現役時代カレーを食べ続けた話も同じ。「現役時代」と書かれているのは、合理的な理由がなくなれば別にカレーを食べる必要がない(だから止める)ということ。すなわち、合理的な理由の有無にかかわらず変化を嫌うアスペルガーとは異なる性質だと言える。

 ※私はイチロー選手がアスペルガーではない証拠は持っていない。あくまで、この主張の根拠と論法が間違いであるという例。

■夏は来客が少ない。夏はお化けが出る。よって夏に遊びに来たAさんはお化けである。

 偽(笑)。この場合は「夏は来客が少ない」はその人にとって本当であっても、「夏はお化けが出る」はそもそも事実ではない。蒸し暑い夏の夜に怖い話をして冷やっとすることで冷涼感(笑)が得られることから夏になるとお化けの話をする人が昔は多かっただけで、エアコン完備の時代には当てはまらない。だから夏に遊びに来たAさんはお化けとは限らない(笑)。同時に「お化けではない」という保証もできない(笑)。

 ついでに「知能とは何か」の認知項において挙げたBMWの例を見てみよう。

■Aさんの彼はBMWに乗っている。Aさんの彼はDV男である。よってBMWに乗る者はDV男である。

 偽。Aさんの彼がDV男なだけで、BMWに乗ってるからDV男なわけではなく、BMWには女性も乗る。「Aさんの彼」は何ら全体を示さない。極限られた世界の片隅における認知。

■AさんはワインBが好きである。AさんはワインBをDV男と飲んだ記憶がある。よってワインBは美味しくない。

 偽。AさんがワインBを「飲みたいと思わなくなった」とか「飲むとDV男を思いだして美味しいと感じなくなった」は何ら問題ない。感情・気分の領域だから本人の自由。しかし「ワインBは美味しくない」ことにはなならい。ワインB自体の味は変わらないから他人には関係ない。赤の他人なら「そこは言葉上の問題だろう」で流していいんだが、社会人になるとソレが仕事に差し支える可能性があり、身近な人がソレだと何かと振り回されることがある。要は個人的な感情を持ち込まれては困る領域がある(その世界の方が広い)ということ。

 例えば、アメリカの諜報部で働くエージェントCさんという設定で考えてみよう。

■エージェントCさんは日本人Dと付き合っていた。日本人Dはお喋りでロシア人の友達にCさんの仕事の話をしていた。よって日本人は秘密・機密を守れない。

 偽。日本人Dは日本人代表ではないから。が、前項のDV男との記憶が「このワインは美味しくない」を成立させるならば、エージェントCさんが日本人を見て「秘密・機密を守れない」と思い込んでしまうのもやむを得ないことになる。偏見の始まり。

 ※日本人が国際情勢に疎いのは事実であり、「国際情勢に疎いからダメ」ではなくても、「国際情勢に疎いと失うものがある」は真。

 ということから、仮に知能は高かったとしても失敗する理由は多々ある(こっちの方が大きい)。特に他人とはソレを我慢する合理的な理由がない場合(主に自分の利益よりも損失が大きい場合)、排除しようと試みるから。社会性を身につけておかないと、知能を活かす場が与えられなくなり、結局は本人のためにならない。

 すなわち感情の制御もまた知能の構成要素と言える。