「「法人税の国際最低税率導入を」 米財務長官演説: 日本経済新聞」

 その気持ちもとてもよく解る。

 アメリカのように資金潤沢で研究・開発にいくらでもお金を出している国で会社を立ち上げ、軌道に乗ったら税率の低い国へ移転するといういわゆる恩知らずが増えるから。実際、サンノゼでスタートアップ、その後税率の安い州へ移転という企業は多い。

 サラリーマン開発者が企業のラボで開発したものを転職・独立して外部へ持ち出し自分の利益に(独り占めしようと)するのと似ている。

 この成果は「誰の才能によるものか」「誰のおかげか」の対立。遺伝か育ちかに似ている。


 昔のように製造業=大企業だった時代は、一度工場を構えると労働者の数も含め移転は困難だったが、ITの時代は国間の移転が簡単になりなおかつ利益率がはるかに高いため、法人税率を下げても同等以上の税収が得られることから、薄利(率)多売方式で企業を誘致するという考え方が成立する。

 ※国をショッピングモールに見立てたらわかりやすい。

 工場と違ってIT企業は環境にも優しいから誘致側のリスク(汚染や住民との対立など)も少ない。

 利益率は低い上に環境汚染の可能性が高く、更には専有面積が大きく低賃金労働の問題が起きやすい(=ストライキが起きひいては住民と対立し移民を追い出せ運動が始まる)製造業を誘致するよりも、利益率が高く環境を汚染しない、かつ高給職員ばかりでストライキは起きないし近隣で営む商店にも恩恵があり、静かに利益を生む企業をオフィスビルに沢山集める方が国も安定する。

 だから税率の安売り合戦が始まる。

 各国の本音としては、完全なる知的労働者(勤務場所を全く問わない職務)すなわちパンデミック時代にも既に対応済みの職種を理想としていることが見てとれる。

 もちろん国家の研究開発を請け負う企業などはラボを国外に移転するわけには行かないし、本社が外国だと注文を受けられないこともあり、全ての知的労働が税金の安い国に移転できるわけではない。

 法人税率を上げると給料を下げない限り余剰金が減る。蓄えが減り、自然災害やパンデミックのような予期せぬ問題が起きると現金に余裕がなくすぐに倒産する。

 かといって今の時代給料を下げるという選択肢はほとんどの場合ナイので、必然的に人員を減らし、1人当たりの生産性を上げる方向に向く。

 従業員数を減らせば、交通費など1人当たりにかかっていた固定費が浮くため、見た目以上に利益率が高まる。

 工場のように頭数を必要としないIT企業はスリムで利益率が高い。

 そこで更に法人税率の低い国へ移転すると、企業は余剰金が増えるので報酬を増やすことができる。そうやって高給取りはもっと高給取りになっていく。

 高給取りばかりの国は税務負担も減る。滞納が多い低所得層の請求・取り立て・差し押さえ・保護などの業務が減るし、高額所得者には何の控除もないことがほとんどだから、税制もスリム化できる。

 高給取りが増えると必然的に給与所得にかかる住民税・所得税の税収が増える。

 よって法人税率を下げて優良企業を集めることで、簡単に税収を増やすことができる。

 という流れできた。要は美味しいとこ取り

 が、安売り合戦はきりがなく、そのうち「タックスヘイブンが当たり前」という時代になりかねないので、バイデン政権は最低税率を定めようと考えたことも自然。

 アメリカは黒人やヒスパニックの貧困層を沢山抱えていることから社会保障の固定費が高い上、国防にかかる軍事費・防諜費が莫大であり、安売り合戦に参入しづらい体質にある。

 そこで優良知的労働企業が海外に移転してしまうと、対応が難しい層ばかりが残ってしまうことになる。

 その一方で人口が少なくかつ電気代の安い国などは、何十年計画で総入れ替えしようかと考えることもできるため大国とは事情が異なる。すなわち昔とは「移民政策」の内容が違う。自国の国民がやりたがならい低賃金の単純労働者として必要とされた移民から、国を潤わせる知的労働の移民という転換。当然に優遇される。

 下手すると「平均IQは120」みたいな国も出てくるかもしれず、これまでは大方均等に散らばっていた世界の知能分布が崩れることになる。香港やシンガポールの平均IQが高いのはそういうことだろう。

 ということから「高所得企業・個人の税率を上げろ」は今の時代通用しない。あまり地元に根付いてない分簡単に移住してしまい、利益率の低い古典的な企業ばかりが残ってしまいかねない。

 特にアプリの開発企業などは全てオンラインで完結するため、銀行口座さえ持っていたらよく、母国語(英語圏を除く)の売上よりも他言語版の売上の方がはるかに多いので、必然的に海外移転を検討するようになる。

 これからの時代に対応した税制に更新する必要がある。認知も。