信じられないレベルのタクシー。

 2週間ほど前の話。

 自宅マンションの正面玄関にタクシーを呼んだ。

 タクシーアプリに自宅の住所とマンション名、停車位置の目印まで登録しているので間違えようがない。1棟建てなので、ツインタワーのようなEAST/WESTを間違えるようなことも起きない。かつ周りに他のタワーもない。

 しかし。

 家を出る際、既にあと30秒のところまで来ていたタクシーが、エレベーターを降りてマンションから出てもいない。にも関わらず「到着しました」と表示されている。遅れたとなると成績に響くのかドライバーが先に到着ボタンを押したんだろう。

 タクシーアプリに表示されるタクシーの現在地を確認すると、1つ手前の小道を走っていて、通り過ぎて再度一周し元々いた場所を通ってこっちに向かっている。

 すると再び同じ小道に入り、今度は前回と反対に曲り、一方通行を逆走し出した。その通りはマンション正面玄関から見えるので、逆走しているタクシーを目視した。

 そして一周して戻ってくると、今度は反対側の一本手前の小道を入っていき、途中で降りて私を探しに来た。

 手を振ったところ「一周してそちらにつけます。お待ちください」と言いながら走っていった。私が歩いていった方が速いのに返事も待たずに居なくなった。

 この時点でキャンセルボタンを押すべき(乗らない方が安全かと)かかなり迷ったが、好奇心が上回った。

 再び最初に2周した時+逆走した時の計3回通った道に出ると、今度はマンションと反対方向に走り始め、大回りして戻って来た。既に町名も違うどころか、2つの町名を経て。うちを入れると3つ(笑)。

 そして時速80kgくらい(?)で突っ込んできて急停車した。到着予定時刻から10分過ぎていた。

 で、ようやく乗ると同時に「すみませーん、お待たせしましたぁ」と言う30代後半の男性ドライバーの顔を見てピンと来た(*1)んだが、「かなりグルグル回ってましたね。大丈夫ですか」と言うと、特に返事もしないまま行き先を確認し走り始めた。

 そして大通りの交差点が詰まっている状態で左に曲がる車が停滞しているところに差しかかった際、目の前に運転が下手なのか慣れてないのかほんの少し無理があるなという車が割り込んだところでまるで気が触れたかのようにクラクションを鳴らした。

 その車の横を通過するときも、先方の運転手を身を乗り出して睨み付けながら。前を向かないとアンタ(私が乗っているタクシー)も事故るよと言いたいくらい。

 恐らく予定到着時刻から大幅に遅れたという自分の失態(と言うより思い通りに到着できなかった)は、こういうダメな車が多いからだという考え方の顕れかつ私へのアピールなんだろう。全部人のせい。自分は頑張ってるのに世の中が間違ってる的な。

 先程(*1)で書いた「ピンと来た」は、そのおかしな思考回路とキレやすそうな異常性。顔に出ていて、私は何も触れない方が良いと思い、その後目的地まで一言も喋らなかった。

 僅か10メートルくらいの距離を全速力で走りブレーキを踏むの繰り返しで、ほとんどの乗客が吐き気を催すだろう。自分は客を早く目的地に届けるために急いでいるというアピールもあるんだと思うが、もう少し落ち着いて運転すれば同じ道を何周もせずに済むよと教えてあげたくなる。

 他に仕事がなくコロナ禍でタクシー運転手になったのか、或いはコロナ鬱なのか。

 降りた直後、いつも使っているタクシーアプリに初めて「どうでしたか?」というアンケートの画面が表示された。私は何もせず閉じてしまったが、他の乗客の評価は散々だろうと思うと、いずれ配車対象からはずれ、職を失うだろう気しかしない。

 いわゆる「追い出し部屋」モード。

 そしていつの日か解雇(契約解除)通知が届き、「そんなのおかしい」「間違ってる」「根拠を示せ」と会社にキレてみたはいいものの、弁護士を通じて着いてもないのに到着ボタンを押す“不正”のログや、山のような顧客のクレームレビューを印字し渡されて終わるんだろうなという気がする。

 上司が何か注意すればすぐパワハラ扱いされる時代なので、世の中誰も注意をしなくなっていて、その分自分の何が間違ってるのか知らないまま生きている人が増えている。社会が人を育てない時代。

 社会が人を育てないということは、育ち或いは遺伝子が社会人人生の大部分を決定付けることになり、「生まれ」の差を縮められないからますます格差が拡がる。

 今すぐ手を打っても20年30年後にしか成果は現れないが、そろそろどうにかしなきゃいけないところまで来ている気がしている。この5年ほど特に。