タクシーを呼んだら。

 若い女性運転手だった。

 30才にもなってないような。

 「珍しいですね、お若い女性の方」と声をかけたら、すぐさま「もしご不便をおかけしていましたら申し訳ございません」と返ってきた。

 普段嫌な想いをしてそうな感じ。

 まだ男性の中に一定数いる。「なんだ女か」的な人。

 「いえ、むさ苦しいオッサンの車に乗るより若い女性の方がイイです」と返したところ、嬉しそうにあれこれ喋り出した。

 ハンドルを握る指先のネイルアートが可愛らしくそれを褒めると、はしゃぐように喜びつつ「嬉しいです。お好きでない方がいらっしゃるので」と言うので「なぜですかね?」と尋ねると「“運転手にそんなものはいらん”といった感じで」とのことだった。

 何とも残念な考え方。

 息が臭く脂のニオイがするオッサンより、身綺麗な運転手の方が良い。

 赤信号で止まると「お洋服と傘のコーディネートが素敵ですぅ」と言い出した。乗り込む瞬間に見ただけのはずなんだが。

 で「あなたもお綺麗で素敵です」と返したところ、ちょっと喜び過ぎてその後一方通行(進入禁止)に3回入って行こうとし慌てて「いやココはっ」とツッコミ(?)を入れることになった(笑)。

 褒めるのもほどほどにか(笑)。

 女性の運転手にあたった際毎回感心するのは、全ての会話が1回で通じること。当たり前のことなんだが、オッサン運転手は目的地を伝えるだけでも何度も同じ事を言わなきゃいけない。

 例えば「歩道橋を越えたら左」と言えばこの先歩道橋が1つしかない道なのでもうそれで十分なはずなんだが、高速道路の橋を越えたところで「ココですかね」と左に曲がろうとする。

 それは歩道橋かオッサン。

 高速道路は歩けないだろうと思うんだが、ヤローはそんなのばっかり。

 ヤマト、佐川急便、アマゾンの配達員も、女性達は本当に愛想が良く丁寧でイイ。インターホンでちゃんとどこの配達か聞き取れる(笑)。

 この違いは何なのか。

 話は戻り、タクシーを降りる際、わざわざ車から降りて外からドアを開けニコニコ・キャピキャピ顔で見送ってくれたので「可愛いネイル今後も続けてくださいね」と伝え、トレンチコートをなびかせ雨に滲むネオンの中に消えて行くはずだったんだが、12歩くらい歩くと一目瞭然で目的の店が閉まっていて「臨時休業」の張り紙が見える。視力2.0のオッサンの目には(笑)。

 で、引き返そうと振り向けば(ヨコハマじゃないが)、その女性運転手は小雨の中傘もささずずっとこっちを見たまま待っててくれたので、タクシーに戻り「ただいま」と微笑んでみせると「お帰りなさいませ」と満面の笑顔で迎えてくれた。理由は敢えて聞かずに(笑)。

 目的地(帰るだけ(笑))を告げ「“○○ショールーム”に来たつもりが“臨時休業”って店に変わってて」と話し始めると、そこから先は外に笑い声が聞こえてるんじゃないかというくらい車内はコント状態で。

 昔のように24時間365日ヒマ(笑)だった私なら「このまま2人で遠くに行かないかベイベー」と夜景の綺麗な鉄板焼きにでも連れ出すノリだったんだが、前後5日間書類仕事に追われていてそんな余裕もなく(笑)。

 最近は“ロマン”も通じない社会なので、下手にオッサンが女性運転手を連れ出して車内カメラで拉致・誘拐事件と判定されても困るし(笑)。

 行って帰ってくるだけの数十分間だったが、楽しい時間だった。

 今度同じ人にあたったら、葉巻でもすすめてみるか(笑)。