「テレグラムCEO逮捕…Winny事件とも酷似?プラットフォームの責任どこまで?ひろゆき氏「Facebook詐欺広告のほうがよほどまずい」 | 経済・IT | ABEMA TIMES | アベマタイ」

 Winny事件とは何も酷似していない。

 「ツールを提供しただけ」とされるWinny事件をサンプルとして挙げる人は、

 例:ある公園で殺人事件が起きた。当該公園の所有者・管理者を逮捕するのか。ある銀行の口座でマネーロンダリング事件が起きた。当該銀行の頭取を逮捕するのか。ある電話会社と契約する電話を使って詐欺事件が起きた。当該電話会社の社長を逮捕するのか。

という思考にある。

 今回の問題はそこじゃない。

 フランス当局はテレグラムが犯罪捜査に協力しないことを問題視し、非協力的な態度が度が過ぎたため公務執行妨害、そして「幇助」容疑にエスカレートしている。

 冒頭の例を当てはめてみよう。

 ある公園で殺人事件が起きた。警察は当該公園の所有者・管理者に監視カメラの映像の提出を要請したが、無視または拒否された。

 ある銀行口座でマネーロンダリング事件が起きた。警察は当該銀行に対し対象口座の所有者情報の開示を要請したが、無視または拒否された。

 ある電話会社と契約する電話を使って詐欺事件が起きた。警察は当該電話会社に対し対象契約者情報の開示を要請したが、無視または拒否された。

 どうだろうか。

 日本で言えば、捜査初期段階に警察署長名で発行される「捜査関係事項照会書」(協力依頼のようなもの)には顧客の「プライバシー保護」を理由にデータ提出に応じない考えの会社も多々ある。この場合、警察は裁判所の令状(提出命令)を取る必要がある。

 令状にはいわゆる差押権があるため、企業等はデータを提出しやすい。命令(差押え)だから。ポリシーとしては捜査に協力的であっても「提出したいんですが顧客がウルサイので令状持ってきてください」とするところも多い。顧客に対する建前。

 これは問題ない。令状があれば協力するのだから。

 が、この裁判所命令を無視・拒否し続けると、頑なに提出しない理由は何なのかと疑われるようになる。すなわち「グル」(仲間、共犯)なんじゃないかと疑われるということ。

 例えば、宝石店に強盗が入った。しかし店主は監視カメラの映像を提出したがらない。なぜか。という展開と同じ。こっそり鍵を開けて仲間に強盗させて店主は保険金を得るという共犯の可能性が排除できないから。

 DNA採取で言えば犯行現場近くにいた人などに「あなたを容疑者から除外するために提出をお願いします」と同じで、応じたらシロが確定するところ、応じなくてずっとグレーのままいる合理的なメリットがあるのかという話。

 「幇助」とは必ずしも実質的な共犯者でなくとも該当しうる。例えば表向きは飲食店(バーとか)でも、未成年者のパパ活や売春が増えた場合、店側が対策も取らなければ捜査にも協力しない場合「黙認」を越えて「幇助」(積極的な場の提供)と見なされることがある。

 テレグラムはこの段階にある。

 テレグラムに限らず、無料サービスは必ず資金源が必要なので、場合によってはスポンサーをかばっている可能性もある。スポンサーはお金の力で「証拠隠滅」を買う関係。このケースでも「幇助」が該当する。

 少なくとも現時点ではテレグラムという存在自体を罰しようという流れではない。

 当然に、この先は各国の裁判所命令に従う必要がある(でなきゃいろんな国でイチイチCEOが逮捕されることになる)から、テレグラムが提出したデータを元に、芋づる式に多くの逮捕者が出る可能性がある。

 どの程度ログを採っているかは不明だが。

 ※言うまでもなくP2Pメッセージのログではなく投稿などの記録。

 これが他のプラットフォームやツール提供サービスにも波及し、経営陣が保身のために捜査に協力的になることで(本来は当たり前なんだが)、一斉に「秘密」「匿名」だったはずのデータ(ログ)が明るみに出る可能性がある。

 ※こういったポリシー変更は匿名サービスが有名企業に買収されるなどした場合にも起こりうる。例えば匿名無料VPNサービスが資金難に陥って企業に身売りした場合など。

 「自由」と「無法地帯」は意味が異なるので、フランスでのテレグラム裁判の行方次第で今後のインターネットの在り方が変わってくるんじゃなかろうか。

 転換点。

 またこの手の話になると「表現の自由」を持ち出す人がいる。これも今回は全く関係ない。犯罪の容疑者に対する捜査(裁判所の令状)に協力するか否かの問題。表現の幅を制限するものではない。

 この逮捕ニュースに敏感に反応したXのイーロン・マスク氏は、近年奔放な発言が目立つが、Xの運営自体は、

米ニュースNPO「レスト・オブ・ワールド」が2023年4月に公表した調査では、ツイッターは政府・裁判所からの要求をそのまま受け入れる割合が、マスク氏の買収以前は50%前後だったのに対して、買収以降の6カ月間では、むしろ83%に跳ね上がっていた。---Yahoo!ニュース

とあり、事件捜査には協力的なようだ。ブラジルとは揉めているのでアメリカ国内に限ったことかもしれないが。

 ということから、「パベル・ドゥロフの次はイーロン・マスクだ」というのは違う。今のところ。

 法治国家では、法の下に自由が存在する。

 自由と法(ルール)のバランスを見極められる人だけが生き残る時代ということじゃなかろうか。