口から入った菌は胃で死ぬのか。

 またオモシロイ話が聞こえてきた。美容室で(笑)。

 隣の客の担当をしていた20代女性美容師が「乳酸菌で免疫力が上がるそうですね。乳酸菌サプリは効果あるんでしょうか」と切り出すと、客の30代前半の女性が「胃酸で全部死ぬから意味ないですよね」と素っ気なく返した。

 昔から胃潰瘍の原因とされるピロリ菌は胃酸の中で生きているんだが。

 そしてココ数年で、胃の中に乳酸菌が存在することも発見されている。

 そもそも「菌は全て胃酸で死ぬ」という理屈からいけば、細菌性の食中毒は存在し得ないことになる。

 胃酸に限らず、昔から「唾液に殺菌効果があるから、よく噛んで食べたらお腹は壊さない」的な考え方があるが、虫歯菌(ミュータンス菌)や歯周病菌はなぜ口の中で生息できるのかと考えたら、唾液で無菌にはならないという前提で我々は生きている。

 ※汚い人の口の中には約一兆個の菌がいる。

 確かに胃酸は強い酸であり多くを溶かす。科学者達もアホではないのでそのくらい知っており(笑)、胃で溶けてもらっては困る成分を含むサプリメントには、耐酸性カプセルが使用されている。「腸まで届く」等を売りにしているサプリはそういう仕組み。

 単純に胃を通過する間溶けなければ良いという遅延溶解性(時間稼ぎ型)のものもあれば、胃と腸の環境の違いを利用して、胃では溶けないが腸で溶けるという腸溶性のものもある。

 これらは全く新しいものではなく、私の記憶では20年以上前からあり、こういった先端技術は通常医薬品で培われて市販品に転じる。

 化粧品でも同じで、有効成分が皮膚の親水性バリアと疎水性(親油性)バリアを突破する必要があるため、「どうやって浸透させるか」の研究が進んでいて、ナノ化技術によるコスメデコルテや富士フイルム(アスタリフト)のリポソーム型などは傑出している。それぞれアプローチは異なるが、いずれも出は医薬品のドラッグデリバリーシステムの研究から。

 で、結局美容師と客の会話は「サプリは意味ない」という方向に進んだ。

 こういう人達は、「なぜ生野菜をボリボリ食べるのが最も効率が悪いのか」から学ぶとイイんじゃないかと思わず声をかけたくなったが止めといた。

 野菜(植物)には細胞壁があり、その中にフィトケミカルのような有効成分(すなわち栄養)が含まれている。その細胞壁を壊さないと有効成分が出てこないので「よく噛んで食べる」は正しい。大根を切り刻んで食べても辛くないのに、すりおろすと辛くなるのはそういうこと。

 が、馬のように奥歯ですり潰して食べるヒトも少なく、ほとんど丸呑みし細胞壁を消化できずそのまま便で出してしまう構造にあるため、一般的なヒトは生野菜を食べても半分以下(場合によっては15%)くらいしか有効成分(栄養)を吸収できずにいる。

 ということから、仕組みを理解していないと食材を無駄にすることになり、料理とは科学であるべきだと言える。ただ「空腹を満たす」という目的なら別だが。

 野菜から栄養を摂るならスムージーがイチバン良い。

 と、1つ1つどこにどんな成分があり、それをどうやって体内に有効な状態で届けるかと考えていくことで、医薬品もサプリメントも化粧品も、そして料理も行き着くところは同じなはずなんだが、それは賢い人達を前提にした話であり、そうでない人達はまるでトンデモナイ方向へ向かって歩み続けることになる。

 ということを隣の会話から学んだ(笑)。