エルメスとRFID。転売トラッキングの流れ。

 シャネルやヴィトンで採用されているRFIDをエルメスは導入するだろうか。

 RFID自体は何十年も前からありかなり熟れた技術。

 パッシブタイプのタグは電源(電池)を必要としない。商品に取り付けられたタグが発信するわけではなく(映画に出てくるような“発信器”とは異なる)、スキャナが非接触で読み取る方式。

 万引き防止タグがまさにソレ。

 例としてリードオンリー(書き換え不可)型タグを採用した場合、どのように製品をトラッキングするか、そして個人情報の問題はあるのかないのかについてまとめてみた(先に言うとナイ)。

 ※技術的な解説かつ私の活用案であり、シャネルやヴィトンなどがどのように使っているかは知らない。

 例えばエルメスはバーキン製造時にそのバッグ固有の製造番号(+製造年月日等)を記録したタグを縫い込む。ココではサンプルとして「ABC123」としよう。

 パリ本社は「ABC123を日本に出荷した」、エルメスジャポンは「ABC123を●●百貨店●●店に出荷した」、●●百貨店●●店は「ABC123をNNNN年NN月NN日 NN時NN分に顧客XYZに販売した」という具合に、データベースに登録・更新していく。

 ココでの例はリードオンリー(書き換え不可)型タグなので、飽くまでエルメス社内のデータベース上の「ABC123」についてコメントを残していく方式。小包みの追跡番号と同じ。

 すなわちバッグに縫い込まれているタグ自体に個人情報は一切記録されないので、昔ながらのシリアル刻印がただチップに変わっただけ。

 で、スキャナ(RFID導入と同時にエルメスが保有するもの)は何メートル、何十メートルくらいの範囲にあるものは一括で読み取れるので、エルメスの調査員は客を装いつつスキャナをバッグの中に隠し持って(笑)、専門店という名の転売店に行き店内を歩き回るだけで良い。

 読み取られた全バッグの製造番号を本社データベースに入力し、どこでいつ誰に販売された品かを確認することができる。

 そして店舗のスタッフ端末には当該顧客のバッグが転売(または使った後に売却)された旨通知する。転売か常識の範囲の売却なのかの期間による見極めは、エルメスが製品寿命やトレンドなどから独自に設定すれば良い。

 店頭スタッフは転売顧客を問い詰める必要はない。今まで通り買い物させて肝心なバッグを出さなければ良く、吸い取り尽くして脱落するのを待てば良い(笑)。

という流れ。

 この仕組みが公になると、バーキンやケリーなどブティックとの継続的な付き合いが重要な商品においては、転売客はタグを切り取って売ろうとする。すると完全な中古と化するので買取価格が下がり、転売ビジネスが成立しなくなる。

 エルメス自体に興味がなく、単発の転売益狙いで別に転売がバレても何ともないという客はタグ付きのまま売るだろう。必然的にスーパーフリーで買える可能性のあるバッグに絞られていく。

 一方で、せっかく積み上げた購入実績やブティックとの関係性を無駄にしたくない客は、欲しくもない色・サイズのバーキンまたはケリーを買って「家族に譲った」とか言いながら即転売するというケースはほぼなくなるだろう。自分の枠を使い果たし「夫名義であと2つ」というケースも本当にお金に余裕があって自分で使う客(すなわち本物)だけになると思われる。

 この追跡によって転売屋も困るが、実は店舗スタッフも困る。どの店舗の誰が販売したバッグが転売されたかを集計すると、特定の店舗・スタッフに行き着くことが多いから。「(1)転売屋に気付かない(客を見る目がない)スタッフ」「(2)転売屋だと気付いていて見て見ぬフリしているスタッフ」「(3)転売屋とグルのスタッフ」などが考えられるが、当該スタッフは本社に呼ばれて尋問されるという流れになる。

 だからエルメスやロレックスほどの人気商品を抱えるブランドは、売上による報酬(インセンティブ)制度は廃止されていくのが基本形。社内不正の防止。売上ベースの評価では上記(2)と(3)が増えるから。

 RFIDは他にも活用できる。エルメスブティック内でもスキャナを起動させておき、どの製造番号のバッグを持った人が店内を出入りしたということをモニタリングすることができる。

 ※自分で買って使ってる人もいれば、転売店やメルカリ等で買った人もいるし、プレゼントでもらった人もいるので、これだけでは何も判断できない。

 この場合、読み取り範囲内にあるものは全て読み込まれるため、個別にどの客がどのバッグを持ってるとまではワカラナイ。そこまで知りたい場合はスキャナの出力を下げ、至近距離でバッグ毎に読み取る必要があるため、これは客に対して失礼にあたるのでできないだろう。

 よくRFID付きの物品を落とした・盗まれた場合、警察がそれを発見したとき持ち主に連絡してくれるのかと考える人がいるが、今回解説した内容ではシリアル番号しかタグ内に記録されていないため、正規の持ち主が誰かは拾った人にも警察にもわからない。

 警察がエルメスに持って行き、エルメスがスキャナでタグを読み取り、社内データベースで検索すればようやく最後に販売した正規店と客がわかるというレベル。

 アップルのAirTagの仕組みを導入すれば、近くにiPhoneがあれば匿名で自動追尾することができるが(すなわち世界中のiPhoneユーザーがパトローラーになるということ)、客本人の「盗難防止機能への同意」が必要になる。売却時の解除方法も検討する必要がある。

 パッシブタイプのタグは自ら電波を発しないので、電界強度で探知するいわゆる「盗聴発見器」のようなものには反応しない。

 というわけで導入自体に特に支障はないはずだし個人情報の問題もないので、エルメスの方針次第。

 バーキンとケリーだけでも近代化するのはアリなんじゃないか。