「世界の大富豪500人、1-6月に資産1.4兆ドル失う-過去最悪の半年 - Bloomberg」

 以前にも書いたが、毎回「●●ドルの資産を失う」「●●ドルが吹き飛んだ」的な報道に違和感を感じる。

 例えば「(保険屋にも申告されていない)タンス預金N兆円が火事で全焼した」という場合は、資産(現金)N兆円を失った(戻ってこない純損失)と言えるが、この手の報道で出てくる“資産”とは、大半が手持ちの株或いは不動産等の評価額の増減のことなので、実際には現金は動いてない。

 例えば、06月01日の株価で「持ってる株券を全部売ったら1兆円になりますよ」という評価額だったものが、07月01日の株価で計算すると「5,000億円にしかなりませんよ」という場合、株価が半値に下がったことが原因だが、そもそも売り買いしない場合、計算上の評価額が増減しているだけで、株券という権利は保有したままなので、株価が再び元に戻ったり、或いは比較基準時の株価を上回れば、再び評価額上の資産が増えるため、「失ったと報道されたが、逆に増えてない?」ということが生じる。

 金(ゴールド)も同じで、5,000円で買って10,000円に上がり、それが5,000円に下がった場合、10,000円だった時を基準日として「金資産の半分を失った」と報道されても、仮に5,000円で売ってもプラスマイナスゼロだし、再び上昇に転じ7,500円で売れば、購入時の1.5倍。売買差益が出るということ。

 不動産も同じく。住んでいる豪邸や土地の評価額が30億円から15億円に下がったとしても、当人がそこに住み続けている限り何も損をしない。もし今すぐ売ろうとしたときに半値でしか売れないということ。

 ソフトバンクのように借り入れの多い借金経営の会社は、担保とする株券や不動産の評価額が下がると追加担保の差入や早期返済を求められ、その結果現金が出ていくということは起こりうるが、個人の資産の増減を見る場合、評価額の目減りは「失った」ではない。

 大富豪はお金に困ってないので、わざわざ評価額が目減りした時に売ったりはしない。

 これを為替相場に置き換えると、1ドル=100円だった時と比べて、1ドル=136円で計算した場合、「日本はGDPの26.4%を失った」かというとそうではないのと同じ。全額ドルに換金する必要がないから、ドル円の現在レートで計算した額が減っただけ。

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仮に日本のGDPを500兆円とすると、1ドル=100円で計算すれば5兆ドルだが、1ドル=136円で計算すると3.676兆ドルとなり、ドル圏からは26.4%目減りして見える。
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 同じように、日本人の労働対価で考えてみると、日本人を1ヶ月間雇う際の賃金相場が25万円だったとする。

 25万円を1ドル=100円で計算すれば2,500ドルだが、1ドル=136円で計算すると1,838ドルとなり、ドルを保有する人達が日本円に換金して日本人に賃金を払う場合は、「日本人の人件費が26.4%安くなった」と言える。

 しかし日本人労働者は日本円で25万円を受け取り日本で生活している限り、何も減らないし、何も失っていない。それを「日本人労働者は26.4%の賃金を失った」と報道すると、えっ?となる。

 先日のiPhoneの値上げの話と同じ。

 ただし日本人が海外通販や海外製品を購入しようとすると(すなわち日本円をドルに換金しようとすると)、25万円で買えるドル製品は26.4%減るので、円安時の輸入や海外旅行は損するという仕組み。

 すなわち、現在の評価額(またはレート)で「もし売り買いしたら」という話であり、売買しない限り「失った」と確定するものではない。

 こういうのも中学生くらいからテストに出した方が良い。