物価から見るエルメスのバーキンの値段。相場観。

 1984年発売のバーキンは当時50万円だったらしい。

 それが今では約150万円。

 が、「値上げしすぎ」と考えるのは自己中心的な物の考え方で、世界の物価推移と照らし合わせてみると、割とまともな数字だという事実が見えてくる。

 フランスの消費者物価指数の推移によると、バーキン発売当時(1984年)の53.22から今はその2.25倍の119.79になっているので、物価を考慮した現在(去年)のバーキンの価格は112.5万円ということになる。

 これを日本に持ち込んで売ろうとするとその費用が加算される。

 日本は1989年に消費税3%を導入し今では10%。数年前日本とEU間で関税撤廃協定(EPA)が結ばれたが、革製品は段階的に下げられていくのでまだゼロではない。そしてこの数年ではパンデミックで輸送費が高騰したり、ウクライナ・ロシア戦争で飛行機が南回りとなったことで12時間→15時間(1.25倍)に。それによって更に輸送費(燃料費、人件費を含む)も保険料も高騰し、急速な物価高に見舞われていることを考えると、現在の150万円という価格は意外に手堅いと言える。

 「手堅い」とは、ハイブランドとしてのプレミアがそれほど乗ってないという意味。

 ※物価とは全体の平均であり、必ずしも物価通りバーキンの製造コストが上がっていくとは限らず、利益率は上がっているかもしれない。

 物価上昇率2%/年が35年続くとちょうど2倍になる(×1.02を35回)から、このまま推移しエルメスが余程の失敗をしない限り、35年後のバーキンの定価は300万円を超えているだうと推察できる。その頃通貨の単位が変わっているかもしれないが。

 子供の頃、親から「子供の頃は100円で何が買えた・できた。当時と比べるとモノの値段が上がった」という話をよく聞いた。まさしくそういう話。

 で、日本は1984年から2-3割(1.2786倍)しか物価が上昇していないため、それを基準にするとバーキンの価格は今63.9万円くらいでちょうど良いということになる。

 フランスの35年間で2.25倍とは大きな開きがある。

 それどころか、物価が2-3割増しの中で賃金が上がっていない一般的な日本人の財布にとっては、60万円台であっても当時より高く感じる=相対的に貧乏になっているため、150万円のバーキンが異常に見えたりする。

 物価に対し所得偏差値が下がり、更に世界的な物価推移にも置いていかれているため、日本人の相場観にはズレがあり、つい20年くらい前まで「後進国」(発展途上国)と呼んでいた国の人達が今東京に来て「安い安い」と何百万円、何千万円分も爆買いしていくのが信じられないという認知錯誤が生じている。

 だから私は普段日本人に投資のアドバイスを求められても投資自体を勧めていない。日本から世界が「変」(いわゆる“変わってる”)に見えるが、世界から見ると日本が変(“変わってる”る)だから。

 この「変わってる」に良いか悪いかの意味は持たず、全体の流れとは全く異なるという意味合いでの「変わってる」(≒少数派)でしかないが、投資のような相場観(需要と供給のバランスとか全てが相対的(統計学で言う偏差値)で決まるもの)を重視する取引・駆け引きには環境的に向いていない。

 冒頭で「「値上げしすぎ」と考えるのは自己中心的な物の考え方」と書いたのは、日本人を中心に世界は動いていないということ。相場観の基準自体がズレていると、値打ち(≒価値)など全ての判定がズレるので、フランス製品の購入を検討する時はフランスの物価推移と照らし合わせ、なおかつそれを他の先進国や全体から逸脱していないかを確認した上で、「買い」「見送り」を判断した方が良い。

 が、島国日本でその感覚を持つ・保つのは難しい。

 というわけで、私個人はエルメス製品を投資対象として見てないが、よく見聞きする「資産価値」とか気にする人達に尋ねられたら、現状の価格はそんなにとぼけた数字ではないので、「買ってもイイんじゃないか」と答える。

 ただし、物価上昇に収入増がついていっている人に限る。

 次は「フィルタリング」としての値上げについて書いてみたい。

 ※投稿時、計算に参照したデータと異なるURLにリンクを張っていたため差し替えた。