ロレックスの認定中古時計制度で何が変わるのか。

 ロレックスが欧州で認定中古時計制度を開始したらしい。

 消費者はこれで転売による二次流通価格の高騰に歯止めがかかると考えているだろう。

 私はそうは思わない。

 まず、一般論で言えば正規の中古取扱店舗は余程のビンテージレア物でない限り定価以上の買取価格は提示しないだろうから[*1]、正規の所有者は今まで通り既存の買取屋に高値で売った方が良い。あるいは個人売買した方が良い。

 [*1]通常なら、正規ブティックで定価150万円の品と中古200万円の品を同時に扱うわけにはいかないだろう。

 よって流通量が圧倒的に既存買取ルートに偏る。

 中古品の買い手としては、真正性が保証され、2年間の保証付きという安心感があり、できれば認定を受けた中古時計を欲しいところだが、そんなものが定価以下で買えるとなれば一瞬で売り切れる。

 そして転売される(笑)。「認定中古店で買ったので確実に本物です」というお墨付きで。

 要は新品よりも認定中古の方が買いやすいのであれば、それが狙われるということ。

 で何が起きるかというと、ロレックス認定中古店マラソンが始まる。

 当然そこに業者が参入する。

 今まで定価より高値で買い取っていたものが安くで買える(仕入れられる)のだから、アフィリエイトランナーを雇って認定中古品を買い漁る。そしてこれまで通りの再販価格で販売し(或いは更に上がるか)、よりいっそう利益率が高まる上に、偽物リスクがなくなり安泰となる。

 当然に、ロレックス側は認定中古の購入時には身分証提示で購入個数・期間制限を設けるだろう。

 それは現在新品制限モデルを買う時も同じなので、新品がこれだけ転売されているのに、中古ではそれを防ぐことができるという根拠が全くない。

 結果として、既存の中古流通ルートの方が高値で売れるので、所有者がロレックス認定中古プログラムを通じて売る理由がなくなる。

 車の買取・下取制度と照らし合わせた場合、私は面倒くさがりなので「もっと高くで売れるルート」を探したりはせず、ディーラーの下取制度を利用し毎年同じメーカーの新車を買っていた。

 こういうケースもゼロではないにしても、ロイヤルカスタマーなどに限られる。また車の売買と時計の売買はまるで違う。時計を売るのは手軽。

 せっかく当該制度を立ち上げたロレックスは、何とか正規の所有者に「売る時は認定中古プログラムで」と働きかけるだろうから、何かしら特典を設ける必要がある。

 考えられるのは新モデル購入時の下取り時か。下取りと引き換えに、ある程度“予約”が融通してもらえる的な。

 マラソンなしで確実に次の品が買えるならじゃぁ下取りに出そうかという人は少なくない気がするが、世間が気にする「資産価値」という意味では低下する。

 メルカリなど個人売買で売れば500万円、既存買取屋なら200万円、認定中古プログラムなら100万円みたいな状況下で、大衆がそれを選択するとは思えない。インターネットでいくらでも情報が得られる時代に。

 よって既存の買取相場以下で買い取るというのは難しい。

 更に問題はこの認定中古プログラムは「購入から3年以上のモデルが対象」という点。

 転売屋は買ってすぐに換金したいから既存ルートで売りさばくし、最新モデルが欲しい中古の買い手は当該プログラムを利用しない。

 なぜ「3年以上」としたのかは、せめて3年は使って欲しいという生産者の想いとは別に、冒頭に書いた同じモデルの新品と中古を同時に売りづらいという点もあるだろう。既にモデルチェンジし製造終了となっていれば、プレミア価格が付いていても説明がつくから。

 ということを踏まえると、認定中古を定価以下で販売すると転売市場が活性化するだけなので、製造終了後のビンテージプレミア価格で販売される可能性が高い。すなわち定価以上。カルトワインと同じ

 当初の落とし所としては、業者の既存の平均仕入れ(買取相場)価格以上で買い取って、中古販売市場相場以下の価格で売る。これで正規保証付きなら確実に選ばれる。

 売り手(正規所有者)から見たら、既存買取屋と同等以上の価格が提示され、中古買い手から見たら、既存中古市場相場以下で買えるので、双方がこの認定プログラムを選ぶというシナリオ。FXで言うスプレッドの圧縮。

 現状の中古屋と比べると利益率は下がるが、ロレックス正規販売店が既存(3年以上の)中古マーケットを横取りするプランと考えられる。新品品不足にしびれをきらした正規店の怒りの反撃といったところか(笑)。

 というわけで、このシナリオならば3年以上経ったモデルに関しては認定中古プログラムが中古流通を独占できる可能性がある。しかし独占後は値をつり上げて行かない保証はない。

 この仕組みと目的を市場が理解するまでの間は、多少のショック相場が見られるかもしれないが、仮に目的が前述の「中古マーケット横取りプラン」だと判明すれば、株価も中古価格も高騰するだろう。

 最終的には「どこよりも高くで買取ます。そしてどこよりも高くで売ります。だって正規認定品ですから」となる可能性を秘めている(笑)。日本で言う独占禁止法に触れる可能性も極めて高いが。それで3年未満の市場を残したか。

 欧州最新鋭のビジネスモデルが堪能でき、非常に興味深い。