「資産価値」は売り手に対して褒め言葉か。

 エルメスのバーキンやケリー、ロレックスの時計など、中古買取価格が定価を上回るような品を買う際に「資産価値」という言葉を使う人達がいる。

 実際に価値が下がらず、現金をバッグや時計に換えただだけ。ただの「消費」と違って目減りしないどころか増える可能性がある。だから表現自体は間違っていない。

 が、商品を買う時に「資産価値を考えて」という言葉が売り手(販売員)に対して響くかというと、下手するとマイナスの印象を与えるかもしれない。「資産価値が高い」という表現自体は褒め言葉だったとしても。

 ※販売員の国語力次第で、何も感じない人もいるかもしれない(笑)。

 資産の価値とは、売ることを前提として評価するものだから。

 というよりも、売った時に初めて意味をなすもの。

 例えば株。100円で買って200円になった。そのまま持ち続けて今度は50円になった(メディアではこの時点で「50円の資産が吹き飛んだ」と表現する)。それでもそのまま持っていてまた100円になった。

 何も変わってないので、資産として特段の価値があるかというとナイ。100円預金しているのと同じ。配当で銀行金利以上に利益が出るなら価値がある(銀行預金に対する優位性がある)。

と言える。

 で、100円で買って株価が100円を上回った時に売って初めて利益が出る。

 すなわち資産価値とは売る前提で評価するもの。

 マンションなどの住宅も同じ。通常は徐々に目減りしてくものであり、1億円で買った住まいが5,000万円になった際に「この物件は資産価値がある」とは表現しない。もし1億円で買った物件が1.2億円になれば「資産価値がある」と言うだろうが、売らない限り利益は出ない。

 ※余談だが、仮に10年後に買い値の1.2倍(1.2億円)で売れたとする。しかし物価は1.3倍になっており、再び同等の住まいを買うのに1.3億円必要だとすると、物価上昇率に対する相対的な評価としては目減りしたことになる。

 ということから、転売を嫌うエルメスやロレックスに対し「資産価値」という表現がプラスかというと私はそうは思わない。

 むしろ「品物やブランドに対しては思い入れがなく、価格が上がったら売却するんだろうなこの人」という印象じゃなかろうか。結局のところ転売目的。間接的であっても。

 そういう人はできるだけ高くで売りたいので、保護シールは剥がず(ロレックスは購入時に剥ぎ取られるが(笑))、使わずに箱に入れて保管しておくだろうから、販売側は「使ってるところを見たことがない」=もう売ったんじゃないかと思われる流れ。

 買ってすぐ売れば転売に見え、2年後に売れば当たり障りがないというだけで、資産価値の高さで買う人とは、本質としてはバッグや時計としての魅力ではなく、投資対象として惹かれているに過ぎない。

 では、作り手または販売員の「思い入れ」とは何か。

 例えば、生まれ育って思い入れのある実家を事情あって手放すことになったとする。この土地がこの町が好きという人に売りたいという時に、どこからともなく現れたお金は持ってそうなよそ者が「この土地は将来値上がりする(資産としての価値がある)から欲しい」と言った場合、「思い入れ」を引き継いでくれる人だと感じるだろうか。

 もしかするといつの日か地域の住民が反対するような工場建設用地などにホイホイ手を挙げるタイプかもしれない。お金に釣られて。

 という具合に、「資産価値」という評価は対象物そのものに思い入れはなく、上がるならワインでも時計でもイイという印象があり、どこか冷たい。

 なので表現自体は何も間違っちゃいないんだが、使う場所を間違えるとマイナス効果という話。

 転売を嫌うブランドでの買い物時にはすすめない。特にエルメス。ヒマラヤくらいになればそういう視点(による会話)があってもいいのかなと思うが、バッグは基本的に消耗品だから。