「何で客が頭を使わなきゃいけないの」とは。

 半年ほど前の美容室で(笑)30才くらいの女性客のマシンガントークが聞こえてきた。

 友達か同僚かの男性がロレックスマラソンをしているらしく、毎回時間帯や曜日、販売員との会話などをメモし分析しているらしい。

 それに対し「何で客が頭を使わなきゃいけないの」と女性客は美容師に共感を求めた。

 「バカバカしい」と言わんばかりの口調で。

 美容師は「そんなに大変なんですかー。全然知らない世界ィ」とテキトーに合わせていたが、どうやらその女性客は「そこまで夢中になるって」という感情があるようで、もしかすると男性に好意を寄せていて、ロレックスより私に興味を持ってという嫉妬心もあるのかなと感じつつ。

 それ自体は別にかまわない。

 ヒトは、自分の興味のないことに夢中になっている人をバカバカしいと軽くあしらい見下す傾向がある。

 が、ロレックスにしてもエルメスにしても、世界中の人達が欲しがっている競争率の高い商品を手に入れるためには「ただの客」のままじゃ無理なことは言うまでもなく。

 店頭に物がナイんだから、スーパーで陳列された野菜をカゴに入れるようにはいかない。

 どうすれば商品が出てくるか。頭を使う必要がある。

 どこの製品も、限定品などは予約をしないと買えない、発売日それも朝一番に列ばなきゃ買えないということも多々あり、手に入れたければ何かしら普段と違うことをする必要がある。

 それをバカバカしいと言っていたら、ありきたりのもの(量産品や人気のない物)しか手に入らない人生を送ることになる。

 ※かといって私は列ぶタイプじゃない(笑)。

 モノが溢れる時代、すなわち豊かさの弊害として、モノを手に入れるのに頭を使わない人が増えている。

 1億円を超えるマンションですら、人気物件は抽選に当たらないと買えない。お金さえ持っていたら全て解決というわけではない。

 お金を持つまでの悩み、お金を持ってからの悩みと、常にそのステージにおける課題がある。

 エルメスとかロレックスとか高級ブランド品というだけで顔をしかめる人も多いので、少しカテゴリを変えて、大人気のコンサートチケットなどに置き換えてみるのもいい。

 どうしても行きたいコンサートのチケットが大人気で手に入らない。

 買って高額転売している者もいる。

 そういう状況下でどうするか。

 転売屋から買う人(A)もいれば、自分で手に入れる方法を考える人(B)もいれば、手に入れられる人に頼る人(C)もいるし、「不公平だ」とただ嘆き悲しむ人(D)もいる。

 Aは高くつくし騙されるリスクもある。しかし手っ取り早い。ただし転売屋に利益をもたらし更なる転売の資金源となる。※エルメスやロレックスなどに置き換えた場合、ここで言う転売とは新品の話。中古の売買は含まれない。

 Bは時間と労力がかかる。そして頭脳を必要とする。頑張っても成果が出ない人もいる。上手く行けば特権的な地位を手に入れる。

 Cはそんなアテがあるなら「持つべきは友」だが、頼れば借りを作る。場合によっては対価・報酬(見返り)を要求されるかもしれない。

 Dはお金はかからないが、コンサートに行くという体験は得られない。実際に体験格差社会が訪れた

 結局は何かと引き換え。

 AもBもCもDもイヤで、そもそも欲しくならないように頑張るという人もいる。

 中にはすっぱい葡萄の心理もあるだろう。欲しいのに手に入らないと腹立たしいので欲しくないと自分を言い聞かせるために、欲しくない理由をでっちあげる(笑)。葡萄で言えば「どうせあの葡萄はすっぱいに違いない」という心理。これを人気商品にあてはめると「どうせすぐにブームは過ぎ去って価値が目減りして損するに違いない」とか。

 タワーマンションもやたら攻撃する人達がいる(非常に多い)。「どうせ夜景なんてすぐに飽きる」とか。

 20年以上見てて全く飽きないどころか、これが一生続いてくれたらいいなと私は思う。都心は日々景色が変わるし、場合によっては巨大なビルの建造で眺望が遮られる可能性もある。どうなるかは人生と同じで人それぞれ異なる。

 冒頭のロレックスマラソンの男性が、何目的でロレックスの時計を欲しがっているのかはワカラナイ。

 純粋にその時計が好きなのか、転売して利益を得たいのか(時間と労力に見合うかはその人の所得次第)、次に他の時計が欲しくなった時に目減りしない時計が欲しいのか、単にマラソンという運動を続けるためにロレックスをぶら下げているのか(笑)。

 ダラダラとした生活を送るよりはイイんじゃないか(笑)。頭を使えばボケ防止にもなる(笑)。

と私は思うんだが。

 他者がどうこう言うようなことじゃない。本人が楽しくやっている限り。もし愚痴り出したなら話は別。聞かされる側が迷惑を被るから「だったらやめたら?」と批判されても致し方ない。

 対象が「商品」だと物欲と結びつけてしまう人もいるので、これをサービスに置き換えてみるのもいい。

 同じ1万円を使った客同士を比べて、一方は塩対応を受け、もう一方は丁寧かつ手厚いサービスを受けたとする。

 相場と照らし合わせて、仮に「1万円じゃ塩対応は当たり前」という業界なら、ではもう一方はなぜ良いサービスを受けられたのか。

 相場に反して「当たり前」でない+αのサービスを受けられるということは、他の業界では店頭にない商品が出てくる可能性を意味する。

 もっとシビアなカテゴリに目を向けると、例えば紹介でないと予約がとれない名医に手術を頼みたいとか、紹介やお金じゃ動いてくれない名弁護士に弁護を依頼したいとか、人それぞれいろんなシーンがあるだろう。

 世の中自分が望みさえすれば手に入る物・事ばかりではない。

 というわけで、日頃から難しい物・事を手に入れるために頭を使う・身体を動かすというのはイイことなんじゃないか。と私は思う。

 いざというときのための準備運動のようなもの。