転売対策は営利に反する?

 転売活況ブランドとして、エルメスとロレックスを例に転売対策について考えてみる。

 バーキンやデイトナを買って転売する人達が沢山いるため、オフィシャルブティックで定価で買える可能性が著しく下がり、中古(以下「未使用品」も含む)価格が上昇する。

 次第に定価<中古という逆転現象が生じ、ますます転売に参入する人が増え、一般客が定価で買える確率は極めて低くなる。

 エルパトやロレックスマラソンに励んだものの買えずに諦めた人達や、合理的思考の人達が中古を購入するため、釣り上がった中古市場価格を維持できる。或いは更に上昇する。

 中古(買い取り)価格が上昇したまま安定すると、高価な買い物をする際に「バッグ(や時計)に形を変えているだけで、将来的にいつでも換金でき資産価値が高い」と自分を言い聞かせる材料が必要な人達(推定[適正?]所得を下回る人達)まで買うようになるので、ますます需要が高まる。

 そして需要に対し供給が追いつかず過熱する。

 結局のところ、転売業者のおかげで定価購入組の資産価値が上がる(不要になった時に定価より高くで売れる)という微妙かつ絶妙な関係性にある。

 ※私はエルメスやロレックス製品を「資産」性のものとしては見なしていないが、世間でよく用いられる言葉なので、ここでは便宜上資産と呼ぶ。

 そこでエルメスやロレックスはなぜ躍起になって転売対策をしたり、転売屋を見極めようと努力するのか。

 ブティックから見たら、誰に売ろうと利益は変わらないので、転売業者にまとめてドカンと売る方が人手がかからず人件費が浮く分利益率が高い。そうすればスタッフは聞き飽きた「エルメス愛」「ロレックス愛」を語るエルパト&マラソン組の相手をせずに済む(笑)。

 しかしそうしない。

 それどころか毎回律儀に「確認してきますね」と非合理的なことを続けている。

 ということは、手っ取り早く儲けることよりも、本当にバーキンやデイトナが欲しい人達に行き渡ることを優先している(その努力をしている)という企業姿勢が見てとれる。

 株式会社などの営利法人は、利益を得るため(その利益を株主に分配するため)の組織として登記するので、儲けなくてはならない前提にある。

 ちょっと遠回りな事例だが、15年以上前の話。知人が起業した際、そして起業後の運転資金として、法人間で数千万円を複数回続けて貸した。無金利で。それなりに知識はあるので30日以内の返済という条件で「超短期」扱いとした(クレジットカード会社が約1ヶ月立て替えているにも関わらず1回払いには金利をとらないのと同じ理屈)。先方は期限通り毎回キッチリ返済したので何の問題もない。

 しかし税務署としては「金利を取ってくれ」とのことだった。

 用意周到な私は(笑)、「超短期だし、ちゃんと契約書を交わし、収入印紙代も手数料として先方に支払わせてる」(マイナスがないので節税にもならない=すなわち追求しても税務署の利益になる話じゃない)と返したところ、「そもそも御社は賃金業ではないので」と返ってきたので、「“業”ではないから無金利で。それも超短期」と再び返したところ、問題があるとは言えないが、できれば無金利貸付はやめてと言われた。

 その他の例として、素人社長がやりがちなのが、会社で買ったマンションに家族や愛人をタダで住まわせるということも本来はダメで、税務としては「ちゃんと相場以上の家賃を取りなさい」であり、家賃をとらない場合は住んでる側に家賃相当額の収入があると見なされる。

 というように、個人間で無金利でお金を貸したり家賃ゼロで不動産を貸したりすれば「いい人ね」となるところが、営利法人とはイチイチ「ちゃんと儲けなさい」と言われる位置付けにある。

 だとすれば、転売対策は営利に反する

 ことになる。単純に当てはめると。

 転売業者に売れば、簡単に手っ取り早く大量に販売でき、人件費が浮く上に広告費も抑えられる分利益率が高まり納税額が増え、地域社会に貢献する。

 それなのに対策を打ってまで拒絶するとは何事か。

 「営利」を追求すればそういうことになるが、合理的な理由がある場合は表面上のルールが上書きされるのが世の常。

 要は転売屋に売って手っ取り早く儲けるよりも、中長期的に見てそれを上回る利益が得られるのであれば(或いは失われるだろう利益を保護できるのであれば)転売屋を排除する方が良いという説得力のある選択肢が生まれる。

 例えば転売屋ばかりに売っていると実勢価格が釣り上がり「定価」があってないようなものと化し(すなわち「バーキンは実質400〜700万円?」ということになり)、それに腹を立てた人達が、エルメスの関係者が転売業を営み(或いは商品を優先的に流し)暴利を得てるなんて噂したりする。更にはSNSで「買えた」報告をする人が皆転売屋ではブランドイメージが崩れ、長い目で見れば得られるはずの利益が失われる。

 だから「在庫さえあれば」かつ「タイミングが合えば」誰であっても販売する姿勢であることを示す必要があるし、時々スーパーフリーや顧客フリーを出したりもする。と推察する。

 また余りにも正規ブティックで買えないと、店員を接待漬けにしようとする客が出てきたり、エルメスの場合は女性客が多い分、圧倒的優位な立場を利用し男性役職者が女性客に対し下心を抱く可能性さえ出てくる。

 ※いわゆる「役得」の悪用を防ぐため、もしかすると取り扱えるバッグ数はスタッフ間であまり差がないかもしれない。

 日本ならではの深刻な問題として、援援助交際全盛期の頃(90年代後半から2000年代初頭)は女子高生までがヴィトンのバッグを持ってウロウロしていたし、デパートのシャネル化粧品コーナーに制服姿の女子高生が陣取っていることも非常にしばしば見かけた。

 今まさに世間は“パパ活”全盛期であり、気をつけないとパパ活ブランドと化してしまうため、女性客の多いエルメスとしては、賃金格差により女性の所得が低い日本社会において、「なぜこの人が130万円超のバッグを買えるのか」(そこに至るまでの消費額も含め)を見極める必要がある。

 と考えられる。

 よって見た目が適正所得に満たない場合、転売かお金の出所を怪しまれる可能性が高まり、他人よりもお目当ての品を手にするまで時間がかかるかもしれない。

 それもあって夫同伴エルパト組が多いのではないか。

 ということから、もしかするとエルメスにおいてバッグが出てくるか否かは転売防止フィルターに引っかかるか否かが全てかもしれない。

 というのが私の見立て。

 転売の対策をするかしないかは、最終的にはどっちの利益が多いかで判断されるので、通常はブームに火が点くまで転売対策はしない。その方が利益が大きい(顧客にとっても資産価値が上がり満足度が増す)から。が、転売市場が過熱し過ぎて世間の目が厳しくなってくるとブランドイメージにマイナス面が出てくるので転売対策を実施するという構造にある。

 ということを踏まえて次回以降、転売対策の観点からエルメスのバッグ:その他の品「1:1」説について考察してみたい。